ワクチンは生体にとっては異物なので、体内に入ってくる(ワクチン接種する)と、それを排除しようとする働き(免疫)が起こります。
ワクチンはこの免疫反応を利用して当該疾病に罹らないように仕向けているわけですが、ワクチン副反応はまさに人が保有する免疫反応が主体です。副反応は怖い物と多くの人が思っているようですが、実際には、接種した場所が赤く腫れたり、少し熱が出る程度の軽い症状がほとんどです。
ワクチンを接種した時に起こる副反応と、ワクチンを接種しないでその病気にかかってしまった時の危険性を天秤にかけると、ワクチンを接種せずに病気に罹患して重症になった時の方が、ずっと危険性が高いと言えます。
よく、より強い免疫が得られるため、ワクチン接種するよりも自然に罹った方が良いと思っていらっしゃる親御様を見かけますが、全くそんなことはありません。罹患してしまうと当然その疾患本来の症状で苦しいだけでなく、重篤な合併症にも気をつけなければならなくなります。
比較的頻度が高いものとして、おたふくかぜ罹患後に発症する無菌性髄膜炎があります。生命を脅かすような疾患ではありませんが、脳脊髄液検査で痛い思いをすることと入院を余儀なくされます。
水痘罹患では、何年も経ってから帯状疱疹を発症する可能性があります。妊娠初期の女性が風疹に罹患してしまうと、生まれてくる赤ちゃんに先天性風疹症候群を起こしてしまう可能性が高くなります。また希ですが、ロタウイルス感染症に合併する脳症も侮れません。このように、ワクチン副反応を恐れて接種しないデメリットの方がずっと大きいことを今一度、認識するべきだと考えます。
ワクチンも医薬品の一種類ですが、疾患を治すために使用される一般的な薬品と違ってワクチンは疾患の予防のために使用されます。
一般的な薬品によって起こる、その薬の主な作用とは異なる別の作用や体に良くない作用のことを「副作用」と呼びます。
それに対してワクチンの場合は「副反応」と呼び、区別して考えます。薬やワクチンは治験(薬開発の最終段階で、健康な人や患者さんの協力によって人での効果と安全性を調べること)の際はもちろん、実際に販売開始となって広く世間で処方され使用されるようになった後も、副作用、副反応の情報を収集します。
これは、今までに報告のない未知の副作用が出てくる可能性があるからです。その際に、副作用や副反応の他に、偶然に別の原因によって起こってしまう事象もありますが、それも含めて全て副作用や副反応として報告されます。薬やワクチンが原因でないことも含めたそれらを「有害事象」と呼びます。交通事故に遭っても、犬に噛まれても「有害事象」として報告されます。
また、薬やワクチンの影響ではないが、たまたま同様の副作用、副反応にある事象が発生してしまったときは「まぎれ込み」と呼びます。例えば、ロタウイルスワクチンの副反応には1価は24週、5価は32週までに接種するように言われていますが、これは、この時期を過ぎると自然発症の腸重積症になってしまう乳児が出てくるため、ロタウイルスワクチンの副反応と疑われるのを極力防ぐためです。
ではワクチンの副反応には具体的にどのようなものがあるのでしょうか?
軽い副反応で挙げられる中で一番多いのは発熱です。
生ワクチンはウイルスの毒性を、人が罹患しても病的状態にはならないくらいに極限まで弱めたものです。接種後一定の期間をおいてそのワクチンの疾患の症状が出現することがあります。出現したとしてもその疾患に自然罹患した時よりも圧倒的に軽いです。
これは、ワクチンで擬似感染をしているので言わば当たり前の免疫反応です。
それに比べて不活化ワクチンは毒性を完全に無くしているので副反応は起こりにくいです。不活化ワクチンは接種後、当日か翌日に発熱の副反応が多いとされています。ただ、製造の過程でマウスの脳を使用した以前の日本脳炎ワクチンは不活化ですが自己免疫性脳炎の副反応が多く報告されたため、一時接種を止めていた時期がありました。
今は新しくなり、そのような副反応はかなり少なくなっております。
他、軽い副反応としては接種部位の発赤・腫脹が挙げられます。重篤な副反応としては、アナフィラキシー、自己免疫性脳炎/脳症、ギランバレー症候群などがあります。発症頻度はワクチンによっても、副反応の種類によっても様々ですが、軽度のものは0~30%くらい、重篤なもので0.01%未満です。
特殊な副反応として、ロタウイルスワクチンであれば腸重積症、BCGであれば接種同側の腋窩リンパ節腫脹・コッホ現象、おたふくかぜであれば無菌性髄膜炎が挙げられます。中でも子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)接種後に認められた副反応については多くの議論があります。マスコミの過剰とも言える報道やSNSでの投稿により、HPVワクチンは重大な副反応で生涯に渡る後遺症を残す危険なワクチンといった認識が蔓延しています。事実、日本では公費負担してもらえる定期接種にもかかわらず、ワクチン接種率は1%未満に低下しているのが現状です。そして毎年、子宮頸がんと約11000人が診断され、約3000人が亡くなられています。
さまざまな研究で「ワクチンとワクチン接種後に現れる副作用とされている症状には、因果関係があるとはいえない」と結論付けられていますが、日本国民に一度植えつけられた、あるいは刷り込まれた風評被害を払拭するには、並大抵の啓蒙活動では難しいようです。
さらに、極少数ですがHPVワクチンの危険性をずっと主張し続けている団体、研究者が拍車をかけているのも事実です。
なんとか国民のコンセンサスが得られ、HPVワクチンによって一人でも子宮頸がんに罹患する方が減ることを切に願います。
予防接種によって健康被害が出た場合の救済制度についてですが、定期接種ワクチンであれば、予防接種法に基づく救済制度、任意接種ワクチンであれば、医薬品医療機器総合機構による救済制度があります。