予防接種・ワクチンの安全性

ワクチンは基本的に安全と考えて良いですが、それを立証するために様々な試験が課されます。ワクチンは無菌製剤であり、不活化ワクチンでは生きた微生物を認めてはならず、生ワクチンでは外来性の微生物が混入してはいけません。
試験には、細菌、真菌、マイコプラズマ、結核菌などを検出する無菌試験、外来性ウイルスの混入を否定するための試験、ウサギにワクチンを接種して発熱反応を確認する発熱試験、モルモットにワクチンを接種して異常が発生しないかを確認する異常毒性否定試験があります。

これらの試験を全てクリアして、実際に人で治験を行って有害事象が発症するか否か、発症するとすればその頻度、程度はどういったものかを検証し、市場に出回っても支障のないことを確認した上で一般に販売されます。
次に、ワクチンに添加されている成分について見て行きます。

ワクチンに添加されている成分

殺菌剤

ホルマリンなど 病原体を殺菌したり、毒素を不活化するのに使用されます。希にアレルギーの原因となります。生ワクチンには含まれておりません。

アジュバント

水酸化アルミニウムなど 抗原物質(ワクチンの主成分)と一緒に注射され、その免疫原性を増強するための補助剤です。

日本製ワクチンでアジュバントを添加しているもの

  • 小児用肺炎ワクチン
  • B型肝炎ワクチン
  • 子宮頸がんワクチン
  • 三種混合ワクチン
  • 四種混合ワクチン

安定化剤

ゼラチン、グルタミン酸ナトリウムなど ワクチンの品質保持のために使用されています。以前はゼラチンがよく使用されていましたが、アレルギーの原因となるため、他の物質に置き換わってきています。

保存剤

チメロサール 細菌や真菌がワクチン内で増加するのを防いだり、防腐剤の役割で添加されます。生ワクチンには含まれません。以前、米国でチメロサール含有ワクチンと発達障害との関連性を研究した論文が発表されましたが、以後、否定されています。チメロサールはエチル水銀化合物です。水銀と聞くと人体に悪影響を与えそうですが、エチル水銀は安全とされており、体内に蓄積などはしません。
近年はチメロサールを含有しないワクチンがふえてきております。例えばインフルエンザのプレフィルド(予めシリンジにワクチン溶液を充填させている)ワクチンには含まれていません。

抗生物質

エリスロマイシン、ストレプトマイシン、カナマイシンなど 生ワクチンへの細菌の混入を防ぐのと、ウイルスワクチンの製造過程で使用されます。精製されますが、完全な除去は難しいようです。エリスロマイシンは時にアレルギーの原因となることがあります。

予防接種の対象者

受ける側の状態によって、接種不敵当者と接種要注意者が決められています(予防接種法施行規則 最終改正平成29(2017)年9月25日厚生労働省令第95号)第2条;一部改変)。

ワクチン接種不適当者

  1. 明らかな発熱を呈している者(明らかな発熱とは通常37.5℃以上をさす)
  2. 重篤な急性疾患に罹っていることが明らかな者
  3. 当該疾病に係る予防接種の接種液の成分によって、アナフィラキシーを呈したことが明らかな者
  4. 麻疹および風疹に係る予防接種の対象者にあっては、妊娠していることが明らかな者
  5. 結核に係る予防接種の対象者にあっては、結核その他の疾病の予防接種、外傷等によるケロイドの認められる者
  6. B型肝炎に係る予防接種の対象者にあっては、HBs抗原陽性の者の胎内又は産道においてB型肝炎ウイルスに感染したおそれのある者であって、抗HBs人免疫グロブリンの投与に併せて組換え沈降B型肝炎ワクチンの投与を受けたことのある者
  7. 1)から6)までにあげる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者
以下、気になるところを私見を加えて補足してゆきます。

明らかな発熱を呈している者(明らかな発熱とは通常37.5℃以上をさす)について

現代人の平熱は35.5度から36.2度程度と、60年前と比べておよそ1度低下しているそうです。こういったことより、最近は発熱の定義も変わりつつあるため、37.5℃以上→37.0以上に変わるかもしれません。

麻疹および風疹に係る予防接種の対象者にあっては、妊娠していることが明らかな者について

妊婦さんに生ワクチンは禁忌です。毒性を弱めてるからといえ、生きたウイルスを接種したら胎児に少なからず影響を与えるからです。対して不活化ワクチンは大丈夫です。インフルエンザ流行期などは、妊婦さんへは積極的に接種するよう勧めています。

結核に係る予防接種の対象者にあっては、結核その他の疾病の予防接種、外傷等によるケロイドの認められる者について

BCGのことですが、ケロイドが残ってしまうことと結核感染になってしまうことのリスクとを考えると、不適当なんでしょうか?これも変更される可能性があると考えます。

ワクチン接種要注意者(定期接種実施要領[平成 28(2016)年 8 月現在]に規定する)

  1. 心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患、発育障害等の基礎疾患を有する者
  2. 予防接種で接種後2日以内に発熱のみられた者及び全身性発疹等のアレルギーを疑う症状を呈したことがある者(インフルエンザの定期接種の場合、接種不適合者に該当)
  3. 過去にけいれんの既往のある者
  4. 過去に免疫不全の診断がなされている者及び近親者に先天性免疫不全症の者がいる者
  5. 接種しようとする接種液の成分に対してアレルギーを呈するおそれのある者
  6. バイアルのゴム栓に乾燥天然ゴム(ラテックス)が含まれている製剤を使用する際の、ラテックス過敏症のある者
  7. 結核の予防接種にあっては、過去に結核患者との長期の接触がある者、その他の結核感染の疑いのある者
接種要注意者についての私見です。

心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患、発育障害等の基礎疾患を有する者について

当該ワクチンの疾患に罹患した際により基礎疾患が悪化してしまう恐れがあるため、基礎疾患があるからこそむしろワクチン接種して当該疾患を予防することが必要という考え方が現在は主流と思います。もちろん基礎疾患の種類によります。免疫不全症の患者に生ワクチンは禁忌と考えます。

予防接種で接種後2日以内に発熱のみられた者及び全身性発疹等のアレルギーを疑う症状を呈したことがある者(インフルエンザの定期接種の場合、接種不適合者に該当)

予防接種での発熱の副反応は許容範囲であり、認容性は高いと思うのですが、いかがでしょうか?発疹も、見た目と痒さだけであれば当該疾患を予防した方がメリットがあるように思います。インフルエンザワクチンなど、毎年受けて毎年同様の副反応が出る場合は考えものですが。

過去にけいれんの既往のある者

これは、ワクチンの副反応そのものというより、ワクチンの副反応として発熱して、それによって、けいれんが引き起こされるということです。過去に熱性けいれんがあったから接種注意というより、当該疾患に罹患してその熱でけいれんが起こることの方がよくないと考えます。ワクチン副反応としての発熱は、不活化ワクチンなら接種1-2日後、生ワクチンなら接種1-2週間後に出る可能性を把握しておけば、ダイアップなどでけいれん予防することも可能だと思います。

過去に免疫不全の診断がなされている者及び近親者に先天性免疫不全症の者がいる者

卵アレルギー既往者について書きます。製造過程で鶏卵を用いているワクチンはインフルエンザワクチンと黄熱ワクチンです。毎年受けるインフルエンザワクチンが重要ですが(黄熱ワクチンも重要ですが受ける絶対数が少ないので割愛します)、近年は精製の技術が格段によく、まずアレルギーを起こす人はいません。それでも心配な方には、半量ずつ一週間あけて接種したりすることもあります。

バイアルのゴム栓に乾燥天然ゴム(ラテックス)が含まれている製剤を使用する際の、ラテックス過敏症のある者

ラテックスアレルギーのある人は、共通抗原性がある食べ物でバナナ、アボカド、キウイ、クリ、ジャガイモ、トマトに対してもアレルギー反応を示すことがあります。ですので、これらのフルーツに対してアレルギーを持ってらっしゃる人は、ラテックスに反応する可能性があります。

予防接種・ワクチンの安全性のまとめ

冒頭でも述べましたが、ワクチンは基本的に安全なものです。しかし世の中に100%、というものは存在しません。本来の目的は、それぞれのワクチンの当該疾患に罹らないように予防することです。メディアやSNSで拡散される副反応事象に目が行きがちではありますが、受ける側の我々も受け身であるだけではいけません。
無責任な情報に煽られることなく自らがそれぞれのワクチンの特性を理解して接種していかなければならないと考えます。