有史以来、感染症は人類を最も死滅させた病です。1918年世界的に流行したスペインかぜ(インフルエンザ)では、全世界での感染者は5億人以上、死者は5000万人~1億人に至りました。当時の世界人口は約20億人であると推定されているため、全世界の人口の約1/4がスペインかぜに感染し、20人に1人が死亡したことになります。この大流行によって多数の死者が出たため徴兵できる成人男性が減り、第一次世界大戦終結が早まったという説があります。
幕末の日本でも麻疹(はしか)の大流行によって当時の江戸人工の約1/4が死亡したとの記録があるようです。21世紀の現在では細菌に対して数多くの抗生剤、一部のウイルスに対して抗ウイルス剤が開発されており、罹患したとしても医療設備、医療技術の発達により重篤な状態となることはまれです。
しかしウイルス感染症の場合、多くは治療薬がないため、対症療法のみで自然軽快を待つしかないのが現状です。海外渡航ワクチンの一つである狂犬病に至っては、確立した治療法はなく、発症すれば致死率ほぼ100%で、「最も致死率が高い病気」としてHIV感染症とともにギネスブックに掲載されているほど恐ろしい感染症です。
唯一の防ぐ方法はワクチンです。まさに予防に勝る治療なしです。狂犬病ほど重篤な感染症ではなくとも、罹患してしまうと自分自身が苦しむだけでなく、大切な家族、友人にうつしてしまう危険性もあります。自分が罹患しなかったとしても、お子様が罹ってしまった時、自宅看病や入院付き添いなどで一定期間仕事を休まざるを得ないこともあり、経済的問題にも関与してきます。
本年はオリンピック開催で海外から多くの人が日本を訪れます。また各方面のグローバル化に伴い、海外渡航する人もますます増加してゆきます。アフリカや南米の熱帯地域の国では入国に際して黄熱病ワクチン接種の証明書提出が義務付けられています。今後、複数の指定されたワクチンを接種していなければ入国できない国が増えてゆくものと思われます。
前述した通り、予防接種には「自分自身を守る」ことと「社会を守る」ことの2つの役割があります。
ワクチンを受けるとその病気に対する免疫がつくられ、その人の感染症の発症あるいは重症化を予防することができます。また、多くの人がワクチンを受けることで免疫を獲得していると、集団の中で感染症が発症しても流行を阻止することができる「集団免疫効果」が発揮されます。さらに、ワクチンを接種することができない人(妊婦に対しての生ワクチン、血液疾患で免疫力が低下している患者、免疫抑制剤を内服している患者など)を守ることにもつながります。