日本と世界の予防接種・ワクチン事情

我が国の予防接種制度は、先進諸国の中では最低レベルです。よく「日本の予防接種の常識は世界の非常識」「日本はワクチン後進国」などと言われることがあります。いくら良いワクチンがあっても大多数の人が受けてくれないことにはワクチンで防げる病の感染が続いてしまいます。大多数の人に受けていただくにはワクチンを無料接種できることが重要です。

日本ではヒブワクチンは2008年12月から、小児肺炎球菌ワクチンは2010年2月から使用できるようになりましたが、定期接種になったのは2013年からです。
B型肝炎は2016年からです。
ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、B型肝炎ワクチンと同様に、ロタウイルスワクチンは、WHO(世界保健機関)がどんなに貧しい国でも国の定期接種に入れて、無料で接種して国民を守るように指示しています。ロタウイルスワクチンは2020年10月から定期接種が始まります。
またWHOでは、おたふくかぜと水痘ワクチンも先進国では無料化することが望ましいと勧告しています。水痘ワクチンはやっと2014年10月から定期接種となりましたが、おたふくかぜは定期化の時期が未定のままです。患者数が多いインフルエンザワクチンは米国では定期接種です。

米国では「受けやすい体制をつくって、接種率を上げることが大切」という考え方で、細かいことにはあまりこだわりません。しかし日本ではこの考え方が希薄で、接種にあたって細かな決まりが多くあります。例えば熱が37.5度以上あったら接種できない、1日でも接種時期が遅れると、あるいは決められた接種間隔をきっちりあけないと国の定期接種として認められず、任意接種扱いになり自費になってしまうなど、大変やりにくい体制です。
その結果として、実際接種率が低く、ワクチンで防ぐことができる病気にかかる人が絶えないのが現状です。例えば日本では、不活化ワクチンを接種した場合、次の接種まで中6日以上間隔をあけなければなりません。
しかし世界では、不活化ワクチンであれば当日でも翌日でも、期間の制限なく他の種類のワクチンを接種できます(*2020年度中に不活化ワクチン後の待機間隔は撤廃される予定)。他、世界では「不活化ワクチンは筋肉注射」が標準ですが、日本はなぜか皮下注射。実際、皮下注射より筋肉注射の方がより強い免疫力が得られることがデータで示されています。
にもかかわらず、です。これは1970年代の大腿四頭筋拘縮症訴訟のトラウマで「子どもへの筋肉注射は危険」という誤ったイメージが染みついてしまったためです。
そのときに問題になったのはスルピリン(解熱鎮痛剤)やクロラムフェニコール(抗菌剤)の年間100回以上の頻回注射でした。ワクチンは関係なかったのに・・・とんだとばっちりです。それ以降、筋肉注射より痛くて効果の低い皮下注射を受け続けている日本の子ども達は不幸といわざるを得ません。
本邦での副反応に対する市民の反応がワクチン接種の考え方、ワクチンの啓蒙、日本においてのグローバリズムに負の影響を与えていることは明白です。
主な事例では1948年ジフテリア予防接種の無毒化が不十分であったためにワクチン接種によるジフテリア毒素により大規模な医療事故起こったこと、1970年天然痘ワクチンの予防接種で後遺症が残った市民が集団訴訟を起こしたこと、1989年MMR(麻疹、風疹、おたふく混合)ワクチン接種による無菌性髄膜炎が多く発症したこと、2005年日本脳炎ワクチン接種による無菌性髄膜炎が多く発症したこと、2013年HPV(ヒトパピローマウイルス) ワクチン接種後に一部の患者で重篤な症状を訴える症例がでたこと(機能性身体症状説が有力)、などが暗い影を落としています。
健康被害賠償訴訟がくり返され、ワクチンの副反応における健康被害の危険性が強調され、予防接種を受ける人数は急速に低下してゆきました。国の敗訴が相次ぐ中で感染症対策を担う行政機関も、ワクチンに対し次第におよび腰になっていってしまいました。

ワクチンをめぐる日米の差

こういった問題は日本だけのものではありません。
1976年、アメリカではインフルエンザワクチンの副反応でギランバレー症候群を発症した患者が多発し、社会問題となりました。
しかしアメリカが日本と違ったのは、約10年におよぶ議論の後にワクチンのための社会的基盤を確立したことでした。1988年ワクチン被害補償制度を設け、健康被害が発生した人に十分な補償を約束しました。
以来、被害者は国やメーカー、医療関係者の責任を追及しない代わりに補償を受けるか、補償を拒否して訴訟を起こすか、どちらかを選択できるようになりました。補償金の財源は、ワクチン1本につき75セント(約75円)上乗せされた税金で補われました。
接種を受ける人が、相互扶助の保険をかけるようにしたのです。ワクチン被害補償制度が整備された結果、アメリカの製薬企業は、虚偽申告や隠蔽などをしなければ、訴訟リスクを回避できるため、ワクチン開発を加速させていったのです。対照的に日本の行政機関は責任逃れに終始し、開発はもとより、普及にも背を向け続けてきました。
ワクチン接種をしなければ、副反応は出ない。副反応が出なければ健康被害も出ない。健康被害が出なければ国が訴えられることもなくなる・・・という考えのもとにです。
しかし実際は、健康被害の発生数よりもずっと多くの人が、ワクチンで回避可能な感染症にかかってしまっていたのです。
今日でこそ多くのワクチンが定期接種となってきていますが、未だにおたふくかぜは定期ではありません。早く日本のワクチン制度が世界水準に追いつくことを願って止みません。